アクティブ・ラーニングとアクティブラーニング

結論を先に言うと,校内研究レベルでは「アクティブ・ラーニング」と「・」をつけるのが良いです。「・」がなくても音声的には同じものですが,この言葉は使い分けておいた方が無難であるというお話をしようと思います。

アクティブ・ラーニングを校内で研究するにあたって,最初の疑問になりそうなのが「アクティブラーニングって何だ?」ということだと思います。おそらくここに来る前には検索サイトで「アクティブラーニング」と検索したことでしょう。そして「あれ?これって高等教育(大学)の言葉なの?」と疑問をもったことと思います。

最近は中央教育審議会の諮問を受けて,初等・中等教育におけるアクティブ・ラーニングについて書かれているサイトが増えましたので,「アクティブラーニング」と入力しても,「アクティブ・ラーニング」のサイトを目にすることが多くなりました。まずはこれら二つの言葉について,解説しようと思います。

まずは「アクティブラーニング」について。これはもともと高等教育において使われている言葉で,もともとは大学の授業改善(FD:Faculty Development)の言葉でした。その定義は,

一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・ 発表する等の活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う。 (京都大学高等教育研究開発推進センター教授 溝上慎一

とされています。なかなか難しい言葉もありますね。「外化」あたりは何となくイメージできますが,「活動への関与」や「認知プロセス」となると,ちょっと難しいですね。溝上先生は専門が青年心理学だそうで,心理学用語のようなのですが,ここでは解説を割愛しますね。近々記事にしますので,とりあえず保留…。

 

一方「アクティブ・ラーニング」の方は,平成24年8月28日中央教育審議会が「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」の中で

グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等による課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)

という文脈で使われています。

 

大きな流れを整理しておくと,「アクティブラーニング」は,

  1. 先進国で1990年代に高等教育の授業改善に向けた研究が高まる。
  2. 2000年代になって,日本でもそれらを取り入れようという研究が始まる。
  3. 日本で行われていた研究に注目が集まり,高等教育で取り入れようと文部科学省が提唱する。

という流れできているようです。ただ,2.については公的に行われていた研究ではなかったため,個人の研究が特段の注目を受けることを避けるために(そのまま乗っかっただけではないことを強調するためにも),2.の研究と区別する意味もあって,「アクティブ・ラーニング」という「・」がついたと考えられます。この方法は「協同と協働」(これも近々記事にします)の時にも全く同じ様子が見られます。

そして3.を受けて,平成26年11月20日中央教育審議会が「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」

…「何を教えるか」という知識の質や量の改善はもちろんのこと,「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視することが必要であり,課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)…

と初等・中等教育でも取り上げられています。

(いわゆる「○○」という表現についてはこちら → サイト内記事 「(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)という言い回しに見る中央教育審議会の意図

上の記事で詳しく書いていますが,これまでの文部科学省の伝え方から推測するに,これは「先行研究の『アクティブラーニング』とは違うものだけど,それ類するものとしての…」というメッセージと取れます。

ここまで書くと,初等・中等教育における「アクティブ・ラーニング」の研究において,「アクティブラーニング」を深く研究することは,少し意味が薄いということをご理解いただけると思います。冒頭にあった初等・中等教育における研究は「アクティブ・ラーニング」であるということは,このことから来ています。

もちろん,ルーツを知り,先行実践としての成功例や失敗例を知ることも大切でしょうが,何せ多忙な先生方にとって,研究するべきことはまだまだ他にたくさんあります。次の記事では「なぜ初等・中等教育でアクティブ・ラーニングを推奨されているのか」について書きます。


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